およそ40年ぶり。思い出の魚「エソ」との遭遇
みなさんは、「えそ」というお魚をご存知でしょうか。
市場にもめったに出回らず、また一般の釣り人にも嫌われがちということもあり、めったに家庭の食卓にあがることもないので、ご存知ないかたも多いかもしれませんね。
せっかくなので、今日はこの「えそ」をご紹介したいと思います。

なぜせっかくかというと・・・それはある土曜日のことでした。
美容院にでかけていた母がホクホクとした顔で帰ってきました。おかえりと声をかけつつも、手元のパソコンに集中していた私の鼻先にニュッと近づけたお魚の袋。
「みてみて!みてみて〜!」
魚の匂いのついたビニール袋をパソコンにくっつけられたらたまらん!と、慌てて母の話に集中すると、どうやら「エソ」という魚をデパ地下の鮮魚売り場で見つけて興奮しているらしい。
松山出身の母は、お魚大好き!幼いころはよくこの「エソ」を食べていて、大阪に出てきてからかれこれ60年以上たつけれど、その間に出会ったのは1度だけ、それももう40年ぶりに再開したとのこと。そりゃ興奮もするでしょう。
そもそも、エソってどんな魚?
体つきは細長く円筒形で、顔つきはヘビのような爬虫類を連想させます。成魚は10センチ程度から70センチほどになるものなど、種類によって様々。
目の後ろまで大きく開く口には、ギザギザと小さな歯が並び、これによって獲物を逃さないそうな。
鱗はしっかりと硬く、爬虫類を思わせる見た目から、「ワニエソ」や「トカゲエソ」と呼ばれるものも。多くは水深200メートル程度のところに生息し、肉食性で、貝類、多毛類、頭足類、甲殻類、他の魚類など小動物を幅広く捕食してしまうお魚です。
ちなみに漢字で書くと、狗母魚。狗という字は、犬や子犬も指しますが、卑しいものという意味もありますから、この字が入っているという点をとっても、おめでたい席に華々しく登場するお魚ではないということがわかりますね。また、別の漢字では、魚へんに曾で「鱛」とも書きます。
なんで嫌われがちなの?
このお魚を主目的に釣る人は少なく、多くは底引き網などの沿岸漁業・沖合漁業で漁獲され、外道として揚るというのもなんとも可哀想なところです。釣り用語での「外道」は、目的外の魚が釣れてしまったことをいいますが、例えばカレイを狙っていてマダイが釣れてしまったときなどは「嬉しい外道」などとも言われます。
さて、外道として揚る以外に、このお魚が歓迎されない大きな理由としては、ずばり硬い小骨が多いためです。3枚におろしてもそのままではこの小骨のために食べられず、また骨切りしても小骨自体が太くて硬いためハモのように美味しく頂くこともできません。エソを美味しく食べようと思えば、この小骨との闘いを制することが必須条件。スーパーにめったに並ばないのも肯けます。
釣り人にとっては、ギザギザの鋭い歯でラインを噛み切られ、大切なルアーまで持っていかれてしまうことがあるのも、忌々しさの一つ。
美味しく食べられるの?
見た目は悪いし、小骨は多い。あまつさえ「外道」とまで呼ばれ、釣り人たちにガッカリされたり嫌われたり・・・さんざんな「エソ」ですが、一般市場に出回らないもう一つのわけは、すり身にした途端一気に高級魚の仲間入り。そちら方面(?)の業界に買い占められるのも、めったにスーパーでみかけない理由の一つ。

身が淡白な割に味わいがあって美味しい。だから、エソのかまぼこは、高級品として人気が高く、主に関西・西日本では、他にチクワや天ぷら、さつま揚げなどで美味しくいただきます。
和歌山の方ではエソの干物なんかもあるそうですが、これはまさに通好み。知る人ぞ知る、といったところでしょうか。
写真は、3枚におろした段階で物欲しげな顔をしている娘に、ちょろっとお裾分け。ちょびっとだけど、もちろんこれはお酒でしょ!というわけで、おともにしたのは秋田の「美酒の設計」。写真も撮ったのに、気がはやりすぎてピンボケ甚だしく・・・。
それでは、エソ、実食!
まずは、その味の濃さに驚き!淡白だけれど、その旨味の濃さにまず驚きます。あわせて、プリンとしたその食感の良さを感じるのですが、いかんせん、小骨が・・・一生懸命老眼鏡をかけながら取り除いてくれましたが、取り切れていない小骨があたり、「これか〜」という感じ。お刺身だけれど、ガシガシとよく噛まないと危険です。やっぱり、すり身やタタキでいただくのが正解かな。おねぎと生姜をたくさん刻んで、たたいたエソの身とあわせ、山葵醤油で食べると、もう止まらない!

これにお味噌や日本酒やらを足していくと「なめろう」になるけれど、今回はあっさり重視でいただきました。
夜はタタキで、翌朝はこれをたっぷりとのっけて朝ごはんに。ほかほかのご飯に、これはもうかっこまないと!
ただ、ご飯にかけて食べるときは、もう少し味がしっかりしていた方がいいので、今度はなめろうもいいかな。すり身にしたものを丸めてお吸い物もいいかも。冷凍にはむかないお魚ということなので、やっぱり新鮮なうちに一息にいただきましょう!今回は、泉州の港に揚ったものがその日のうちに手に入ったので、お刺身という選択肢があって本当によかった!釣りを趣味とする家族がいれば、今度このエソに出会ったら、リリースせずに連れて帰ってもらうことをおすすめします。
家でさばくには?
というわけで、もちろん家でもさばけます。かくいう母も、「自己流だけどね〜♪」と楽しげに奮闘していました。ふむふむ・・・
1)うろこをとる。(うろこ、かなりしっかりしています!)
2)頭をおとす。腹びれもいっしょに。
3)流水でしっかり洗ったら、お腹から尾ヒレにかけてぐぐっと切り込む。
4)表にかえして、包丁の背中で身を叩いたら、再び裏返して、付け根から骨をはがしていく。
すり身やタタキにする場合は先にウロコをとってもいいけれど、お刺身でいただく場合は、ウロコをとらないまま4枚におろして皮をはぐといいようです。母の場合、ウロコを先にしてしまったせいか、お刺身の身にもちょっとウロコがついていて、口のなかに残る感じが。あと、お刺身でいただくのは、尾ヒレに近いほんの少しの部分がベストのようです。
こうやってみると、美味しく食べるには相応の知識がいるお魚ですね。
母にとっては、幼い頃からの思い出がいっぱいつまった「エソ」。私にとって、母の思い出がつまったお魚になりそうです。
