物忘れ懸賞金ルール

ポテトがない?! 

 昨日、仕事を終えて帰宅すると母が久しぶりに夕飯に某有名チェーン店のチキンを買ってきたという。
 手足を洗ったり着替えたり(私は仕事から帰ると必ず手だけでなく足も洗う。手足を洗うことでその日をリセットできる気がして、とにかく気持ちがいいから)している間も、なんだかんだとその日にあったことを話し続ける母に適当に相槌を打ちながらも、ふとなんだか様子がおかしいことに気づく。
 「どうしたん?なんか探してるん?」と聞くと、なんだか曖昧な返事を返してくる。
食卓に食器を出しながら、もう一度ウロウロとしている母に「一緒に探そか?」と声をかけると、「ポテトがないねん」という。つづけて、「さっきまで持ってたのに、あんたとしゃべっててどこに置いたか分からへんようになった」とな。なんか、うまく私に擦りつけているのはさておき。

ポテトを探そう! 

 さぁ!ここからはポテトの大捜索。普通に置きそうな場所だけ探していたのでは絶対に見つからない。むしろ「置きそうにない」場所こそ大本命。ダイニングが兼用となったリビングだけでなく、隣の部屋はもちろん、洗面所や玄関まで捜索範囲を拡大。冷蔵庫やレンジの中はあたりまえとして、洗濯機のなかまで覗き込む徹底ぶり。母は、「そんなとこ行ってへんよ〜」と言いながら私の後ろをついて回っている。
 ポテトがないと食事ができないわけじゃないけれど、気になって仕方がないのでとにかく探しまくる。
 けれど、やっぱり、ない!!!!
 これはもう、ある日ありえない場所から異臭がして気づくパターンか・・・・

ポテト、懸賞首になる

 探し続けているうちに、ふと思いついた。これをゲームにしよう
 誰だって、こういうことってありませんか?あれ?さっきまでそこにあったアレ、どこいったっけ?ってこと。あれ?私いま、何しにこっちに来たっけ?みたいなこと。
 でも、いわゆる高齢者である母には、こういうことは、自分に自信をなくしてしまう、とても不安なこと。現に、とても心細げな顔をしてポテトを探している。ポテトですよ?!ポテト。大したことないやん?お母さん。ポテトやで(笑)?

 「よし!今から見つけた方が見つけられへんかった方に、500円払おう!これからは、これが我が家のルールです!」

 高らかに、懸賞金ルールを発表。無くし物をした本人でも、自分で見つけたら500円もらえるという、なんかわりと物議を醸しそうなルールだけど、家族だから構わない。なんだったらそれを貯金していくのも面白い。このペースなら、案外早くにちょっとした外食もできそう(笑)。

 500円っていうのがよかったみたい(50円じゃイマイチやる気でないし、5000円だと、本気すぎる)。さっきまでオロオロしていた母が俄然元気に。「絶対、払いっこしよな!」(払いっこって(笑))。
 でもとりあえず、先にご飯たべよっか、お母さん(笑)。ポテトなしで。

結局、ポテトは・・・

 結局、数日たってもいまだにポテトは見つからぬまま・・・。
 レシートを確認すると確かに打ち込みがあるので買ったのは確か。
 けれどその日の夜、母から「もしかしたら、袋に入ってなかったかもしれへん」という衝撃の告白が!

 なんですと?!さっきまで手に持っていたと言うたやないか?!

 ・・・けどまぁたしかに、こんなに探してないのだから、そういう可能性もあるよね〜(笑)。いいやん、ポテトやん。なくても死ねへん。そういうことで、この件は決着・・・(笑)。なんとまぁ

 ちょっと前まで我が家では、何かの名前を思い出せそうで思い出せないことを、「ピオーネ」と言っていました。
 そう、ブドウの品種の一つである「ピオーネ」です。もう、2人でウンウン唸って、何日も何日も、アレなんだっけなんだっけと言いながら過ごし、突然、ポコンっと脳みそから飛び出したように思い出した「ピオーネ」。なんの話でピオーネが気になったのかも、結局どっちが思い出したかも忘れちゃったし。今みたいにスマホやグーグル先生なんかに、気軽にお教えいただけるようなそんな時代じゃないくらい昔の話だけど、それでも今でも、なにか思い出せないことが出てくると、「ピオーネだね」というのがお約束。
 それに代わって、今度は「500円案件だ!懸賞金だ!」になるのかな。貯まりそうだなぁ(笑)。

ポテトがなくたっていいじゃない

 今まさに介護で大変な思いをされている方にとっては、なんとも緩い話で本当に申し訳ないと思うけれど、私も50歳目前となり、母も80歳。
 おかげさまで、80歳になった今でも現役の正社員として毎日オフィスに向かい、iPadminiで本を読み、アプリで塗り絵を楽しみ、電動アシスト自転車を駆って楽々と走り回る強者だけど、今までなんなく出来ていたことが、徐々にしんどくなったりできなくなったり・・・そしてそう遠くない将来、私も母を介護する、そんな日がやってくるだろう。

 そのとき、2人でポテトを探して大笑いしたこの日のことを、優しい気持ちで思い出せたらいいな。祈るような気持ちで、心からそう思うのです。

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